私の趣味は何か、と聞かれたら「旅をすること」と「山歩き」と答えることにしています。
あえて「旅行」とか「登山」とは言いません。なぜなら、むかし漂流の歌人だった西行や
奥の細道を旅した松尾芭蕉のような歩き方にあこがれをもっているからです。
今では世界100カ国以上を旅しています。
旅を始めたきっかけがあります。かつて私は仕事を自分だけで丸抱えし、
懸命に働いていました。あるとき、人事の問題で大変苦しい状況に陥りました。
事態を何とか乗り越えたとき、ふと目覚めたのです。こんなやり方を繰り返していたら、
自分の一生はがんじがらめになってしまうだろう。
何とか発想の転換をしたい、との思いで中国の西安へ行くツアーに参加してみたのです。
夕暮れでした。西安の西門の上に立つと、はるか西へ向かってまっすぐ伸びている広い道路の
向こうが夕焼けでした。この道がはるかシルクロードに続いているのだ、かつて三蔵法師が
ここを発っていったのだ、と思うと旅への熱い思いが私の体を突き抜けていったのです。
翌年私は中国の西域ウイグル自治区のウルムチへ行き、カシュガルからパミール高原の海抜
5千メートルの峠を超え、パキスタンのカシミールに入り、インダス川沿いにペシャワール(アフガニスタンの国境まで20キロの地点)まで行ってきました。
むかし、三蔵法師が苦難の末、通った道の一つだったのです。
私の夢は膨らみました。
その後の旅で中国からローマに続くシルクロードの国はほとんど行き、
陸続きの国々は繋がってしまいました。(行っていないのはアフガニスタンとイラク)
旅の思い出はたくさんあります。ベルリンの崩壊した壁を見てきたこと、北朝鮮へ行ったこと、ベラルーシ、ウクライナへ行き、そのあと黒海を船で横断したこと、ロンドンから列車で北上し、スコットランドのネス湖とアイルランドを回ってきたこと、キューバへ行ったこと、イスラエルなどの中東諸国を回ったこと、イランへ行ったこと、ペルーやブラジルへ行ったこと、など言い尽くせません。
旅の面白さは、
いろんな民族がそれぞれの文化や歴史をもって生活している姿に接することです。
そしてはるか遠くの地から日本の社会を客観的に見つめ、いろいろ考えさせられることです。
新聞やテレビの小さな世界ニュースには格別の関心をもつようになります。
その国の地勢や文化、歴史、環境が分かっているからです。
なぜそんな事件が起きたのか、その必然性も理解できます。
映画や小説、音楽の舞台になっているところは特に関心があります。
誰でも、旅は好きだけれども、時間と金がなくて行けない、と簡単に言います。
しかし、本当に行こうと思えば何とかなるものだ、と思います。
自分の人生観や世界観が開け、同時に仕事に対する新たな意欲も湧いてきます。